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あとちょっと

あと10分。

 

 

日の出時刻の6:50を目指して

ヘッドランプをつけて 

真っ暗な山道をひたすら登ってきた。

 

あとちょっと、あとちょっと。

 

腕時計を見ながら

前に出なくなってきたきた足に

神経を集中して言い聞かせ

筋肉に伝達させる。

 

気温はマイナス8℃だというのに

頭からは湯気を出し

ギリギリで間に合った日の出の瞬間。

 

歩を止めたと同時に

身体中が一気に凍りつき

吹き出していた汗は塩の結晶へと変わる。

 

熟したみかんのような濃いオレンジ色の太陽の光を目をつぶって

じっと全身に浴びる。

 

1℃、また1℃

気温が上がっていく。

山頂に据えられた温度計の

上昇する赤い水銀が

体内をめぐる血液と同化しているようだ。

 

4時間以上かけて

辛くて苦しい山道を登り

この太陽が上がる瞬間の数秒で

下界から持ってきた

腐った精神を吐き出し

この先数ヶ月分のエネルギーを

吸収する。

 

東京の空って

 

広い空に映る変化をフルスクリーンで見れない

 

でもこれが毎日見慣れた空だから

視界が狭くなってるなんて

全然気がつかない

そもそも空ってこんなもんで

夕焼けさえ目に入らない

 

 

どこから車が飛び出してくるか

周囲に変な人はいないか

都会は空なんか見るより

他に注意しなくちゃいけないことが

たくさんあるんだ

目の前の事にばかり気を取られ

先の方は人混みでまったく見えないのが都会

 

 

これって私の人生の縮図

 

 

時には頭上に広がる空を

山に登って

フルスクリーンで見てみよう

 

 

社会にも

人混みにさえも

自分の存在が「不必要」となった時

 

 

どうする

 

そんな質問を自分に投げつけて

町の灯の消えた夜中の帰り道、

ふと立ち止まって呆然とする自分

 

 

 

ずぅっと先まで見渡せる山に登って

果てしない空を見上げてみる

 

今まで見えていなかったものが

見えてくる

見逃していたものの形

知らなかった事の発見

気づかなかった人の心

 

 

所属するコミュニティから切り離された時

誰も信じられなくなった時

人の感情に振り回された時

 

 

誰もいない山に登り

空を見上げてひとりじめしてみる

 

 

自分が本当に大切にしたいものが

見えてくる